ヒグマの足跡から年齢や性別が分かるか


門 崎 允 昭 (森林保護 No.255、1996年掲載)   

  「分かること」

1,ヒグマの手足の横幅(足跡も同じ)が、9 cm以下は一歳未満である。

2,ヒグマの手足の横幅(足跡も同じ)が、15 cm以上は雄である。雌の手足の横幅は最大でも14.5cmである。

3,爪を除く手足の縦幅が22cm以上は雄である。

 

 私は1984年時の北海道のヒグマUrsus arctos の生息域は全道面積のほぼ50%で、生息数は1880〜2285頭と公表したが、その後の本種の出没・捕獲地、捕獲数、生活痕の径年実態から地域により微変動はあるにせよ現状もほぼ同じと見ている。さて、時に山野で本種の足跡を見ることがあるが、その形状から年齢や性別がどの程度分かるものか、私の知見を述べる。

 

  「手足は5指趾で第1指趾が最短である」

 手足部の形態:手足は5指趾で第1指趾が最短である。この最短の第1指趾を手足跡で探しだせれば、手足の左右を決めることができる。手跡は手根部が着地したか否かで形が異なる。着地しない場合は人がつま先で着地した時の形状に似(ただし第1指が最短)、着地した場合は後方外側寄りに円状のその跡が着く。足跡は人が足の全面を着地した時の形に似ている(この場合も第1趾が最短)。本種の手足跡は歩度「進行速度」で、手・足根部が着地したりしなかったりするので、手足跡を計測する場合は縦幅ではなく、横幅を測ることが重要である。横幅は手跡は掌球、足は足底球の最大横幅と指趾部の最大横幅を測る。

 

   「野生ヒグマの出生日は2月1日に統一して計算する」

 手足部の成長:生後間もない子の手足部の最大横幅は1.7〜2.4cmである(頭胴長25〜35cm,体重300〜600gである)。子が3ヶ月齢を過ぎると越冬穴から母子は出るが(ヒグマの出産期は1月から2月中旬であるから、野生ヒグマの年齢推定にあったっては、出生日を便宜的に2月1日に統一して計算する)、この頃の子の手足部の最大横幅は5.5〜8cm、頭胴長は55〜75cmである。したがって、山野で見られる足跡の最小幅はこの時期の子の約5.5cmのものである。また手足部の横幅が9cm以下は、1歳未満の新生子であり、1歳以上は手足部の横幅が9.5cm以上ある。手足部の大きさから年齢を特定できるのは1歳未満か1歳以上かが分かるにすぎない。体の大きさ(頭胴長)と手足の大きさは必ずしも一致しない。また最大横幅が15cm以上は雄である。また北海道産ヒグマの1歳以上の雄の手足部の横幅は、9.5〜18cm、雌は9.5〜14.5cmで、性的二形(性別差)があり、最大横幅が15cm以上は雄と断定して間違いない。これは手足跡の場合も同じである。

 爪:生後間もない子の爪の長さは、指が6〜7.5mm,趾は4.5〜5.5mm、爪の基部の幅は指趾とも1〜2.2mmである。指爪が趾爪よりも長いのは指爪の成長速度が趾爪より早いためで、この現象は生涯続く。4歳以上の成獣の爪長(基部〜先端までの直線距離)は指爪は5〜8.5cm、趾爪は3〜5cm、基部幅は指趾爪とも7〜13mmである。各指趾で爪長も爪色も異なることが多い。

 歩行形態:ヒグマの歩行形態は基本的に手足部の全裏面を着地させる蹠(セッ、ショと発音し、足の裏の義)行型だが、手の手根部が着地しないことも多い(手は半蹠行型の場合が多い)。爪痕がつかないこともあり、また第1指趾痕がつかないこともある。歩調は基本的に並足・早足・疾走の3型で、並足だけが歩行前進で、並足の四肢の移動は側対歩(同側の手足が同時に移動すること)と斜対歩(斜め手足「例えば右手と左足」が同時に移動すること)とがある。他の2型は跳躍前進である。

 文  献

1) 門崎允昭・犬飼哲夫(1993)ヒグマ、北海道新聞社刊

2) 門崎允昭(1996)実用鑑定野生動物痕跡学事典、北海道出版企画センター刊


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