ヒグマが人を襲う原因と対策



この記事は本州以南の「ツキノワグマ」にも当てはまる内容である。


<熊が人を襲う原因は三大別される>
1,人を食べる目的で襲う場合
2,戯れ苛立ちから襲う場合
3,人を排除するために襲う場合


<熊に襲われて生還するためには>
T 熊と遭遇し睨み合っただけでは襲われたとは言わない。「襲われた」とは、熊に実際に爪や歯で攻撃された場合を言う。

U 過去の事例で、熊に襲われての生還者は皆積極的に熊に反撃しており、誰一人「無抵抗」や「死んだふり」で、熊に対応した者はいないことを肝に銘ずべきである。

V もし、熊が襲い掛かってきたら、熊のどこでもいいから、鉈で叩きつけることだ。反撃以外に熊を撃退し生還はない。そのためにも、鉈を必ず携帯すべきである。

W 熊の棲み家に行くときの呼子と鉈の持参は、熊による人身事故を防ぐ必需品である。

X 熊に襲われたら「死んだふりをせよ」、「熊除けガススプレイで反撃せよ」などは無責任極まりない妄言。妄言と断じるのは次の理由による。

X−T 意識ある状態で熊に爪や歯で攻撃されて、じっと我慢し得る人間はいない。

X−U ガススプレイは、瞬時に襲い来る熊には通用しないし、それよりも、人がガスを少しでも吸ったら呼吸ができなくなる。また肌にガスが僅か付着しただけで皮膚が炎症起こし、我慢できないうえ、目に入ったら目を明けていられない、そういうしろものである。
 これでも、「死んだふり」や「ガススプレイ」を推奨するのだろうか。


<実際の対処法>

T 小さな笛「軽い物がよい」と鉈「刃渡り20〜25cmで、振ってみて手が疲れないもの。軽過ぎないもの」を携帯する。

U 時々「5分から10分に1度ぐらい」笛を吹く。時々放声してもよい。

V もし、熊と遭遇したら、絶対に走って逃げないこと。走ると襲ってくることが多い。

W 熊の様子を見ながら、話しかけること。例えば、「お前何してるんだ。向こうに行きなさい」など思いつきで構わない。(自らを落ち着かせる効果を兼ねる)

X 熊の通路を自分が邪魔していることもあるので、話しかけながら、ゆっくりと退去し横に避けてみる。

Y 熊が吠えたりして威嚇しても動じないこと。にじり寄ってきたら、自分目当てと決断して、大声で威嚇し、鉈での反撃を決心すること。

Z 襲い掛かってきたら、熊のどこでもいいから、鉈で叩きつけることだ。反撃以外に熊を撃退し生還する術スベはないことを肝に銘ずることだ。


<熊による人身事故に関する解説>

T 私が熊を研究し始めたのは1970年であるが、以来北海道で1970〜2007年までの38年間に発生した人身事故は68件である。他に熊を見て逃げて転んでの自損が5件ある。68件のうち28件が猟師の事故で、銃撃失敗や執拗な追跡に対する反撃で、原因区分でいえば「排除」である。一般人の事故は40件である。

U その40件を原因別で類型化すると、熊が人を食う目的で襲ったと推察される食害が9件、戯れが4件、排除が26件である。排除の26件はさらに遭遇12件、母熊による子の保護6件、越冬穴の確保5件、食物の入手2件、冬ごもり穴を造る土地の確保1件に類別される。40件のうち死亡事故は13件で、その原因別内訳は食害7件、排除6件である。

V 鳴り物を鳴らしていれば熊に襲われなかった件数は、遭遇が原因の12件のみである。

他の28件は鳴り物の有無に無関係な原因による事件で、これは鳴り物を鳴らしていても防げ得ないものである。と言うことは、この種の事件は人間側では防ぎ難いもので、襲われたら反撃して難を逃れる以外対処法はまずないであろう。 したがって、武器である鉈などの携帯が必要であり、それを用いての反撃が有効なのである。

W 食べることを目的に襲う場合は、人を執拗に攻撃することでわかる。倒した人間をその場で食うこともあるが、多くは己の安心できる環境である薮の中・窪地・雨裂などに人を引きずり込む。そして衣服を剥ぎ取って裸にしたり、遺体に土や草を被せて覆い隠したりする。しかし穴を掘って埋めることはしない。食べる部位は筋肉である。

X 戯れ苛立ちから襲う場合は、2〜3歳の精神的に不安定な若熊で、この場合は頭を下げ毛を逆立てて白目を見せながら、人にじわじわにじり寄りながら、ちょくかいかけてくる。

Y 人を排除するために襲う場合で最も多いのは、人と熊が不意に出会ったときに、熊が先制攻撃してくる場合である。特に単独の2〜4歳の若熊や子を連れた母熊と30m以内で遭遇したときは要注意である。この種の事件に巻き込まれないないためには、鳴り物を鳴らすのが有効である。しかしラジオはだめである。音を出し続けていると、他の原因で近寄ってくる熊の気配が分からない。人を襲い人から反撃されると、直ぐに攻撃を止めて逃げて行く事例は、襲った原因がこの遭遇の場合で、熊は当初からが本気で人を襲うつもりがなく、遭遇で興奮気が動転して人を襲い、人に反撃されて、熊は我に返り踵キビスを返し逃げると言うことである。

Z 人に対するヒグマの襲い方は時期によって2大別される。冬ごもり末期(2月中旬以降)と冬ごもり明け直後は「この時季は個々の熊によつて異なり、3月下旬〜5月上旬まで幅がある」熊は立ち上がる体力がなく這ったまま主に歯で攻撃し易い部位をもっぱら噛る。これ以外の時季は立ち上がって手の爪で攻撃する。

[ いずれにしても、30m以内で人と熊が出会えば、襲う襲わないにかかわらず、頭を下げて白目で人を斜め見たり、「フアー・フアー」とか「グアー・グアー」とか威嚇音を発したり、時には立ち上がって威嚇することもある。これによって人は相当精神的に動揺し、怯むから、ヒグマと対峙した場合はまず精神的に動じないことが肝心で、そのためには、熊がいる可能性がある山に入るときは常に、「もし熊と遭遇したらこうしよう」という心がまえで山に入ることが大事である。

\ いずれにしても、ヒグマの棲場に入る時は「鳴り物と鉈」を携帯すべきである。音を出すことで遭遇による事故は予防できる。しかし、人を食べる目的で襲う場合や戯れ苛立ちで人を襲う場合あるいは子を護るために間をおかず先制攻撃してくる母熊に対しては鉈で対抗する以外ない。こういう場合の無抵抗「死んだ振り」は被害を大きくするだけである。鉈で熊を撃退した例は多くあるし、一般人で熊に襲われ死亡した殆どの人が素手で抵抗し殺されており、鉈で反撃していれば生還しえたとみられるからだ。「死んだ振り」をすれば熊は襲わないと言うのは全くの誤りで、アイヌの口承にもそういう話はない。 攻撃してくる熊に対して「死んだ振り」が有効だと主張する人には、動物園の熊檻にでも入って実際に「死んだ振り」が有効であることを証明してもらいたいものだ。人命の保安に関わることは憶測でいうべきではないと思う。北米で造られた熊撃退スプレー「主成分はトウガラシ類の刺激成分であるカプサイシン」は人にも有害で風上から風下に噴射せねばならぬなど使用が限られ有用とは私は思わない。


<人を襲う熊の存在率>

T 多くの人が熊は総て人を襲うように考えているが、決してそうではない。
猟師を熊が逆襲するのは保身のための防衛であり、これは異質で当然一般人の事件と同一視できず、切り離して考えなければならない。

U それでは一般人を襲う熊の存在率はどのくらいかといえば、それは約二千分の一頭である。その算出根拠は次の理由による。最近38年間に一般人が熊に襲われた件数は40件である。すると、年平均件数は(40件/38年=)約1.05件である。

V そして、この38年間の熊の生息数は年によって多少の変動はあるにせよ、ほぼ2千頭と推定されることから、1年間に一般人を襲った熊の存在率は(1.05件/2千頭=)約2千分の1頭となることによる。これで、人を襲う熊はいかに少ないかお分かりいただけたと思う。これとても、人が積極的に鳴り物を鳴らすなどの対応を講じていればもっと人を襲う熊の比率は小さくし得たはずである。





<日本で熊と人が共存するための基本>

1,日本に「野生の熊が生息していて当然だ」と考え対応すること。

2,「熊を殺さない」、そして、「熊による被害も予防する」という両輪で対処すること。

3,共存の基本は「熊と人が日常的に棲み分けする」ことである。

4,里への熊の侵入を防ぐ基本は、熊の出る場所に「有刺鉄線で柵を造るなり、地面に有刺鉄線をリング状に広げるなり」するとよい。電気柵は保守管理に経費がかかり不適である。

5,熊が居る可能性がある場所に入る場合は、「笛と鉈」を必ず携帯することである。

6,万が一、熊に襲われた場合には、鉈で「積極的に反撃すること」である。熊に襲われて、生還した者は、皆、熊に積極的に刃物などで、反撃していることを、心に命じることである。

7,熊の棲む森林に「ドングリの木」を増やすこと。ましてや、「育木除伐」と称して、コクワやヤマブドウの蔓木を伐り殺すのはやめること。



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